中判スーパーフィールドカメラ「645」とは
中判フィルムを使用する二眼レフカメラの画質がかなり良いことに気付いた私は、35mmフィルムではなく中判フィルムを使うカメラに俄然興味が沸いたわけですが、二眼レフ以外にもいろいろなラージサイズのカメラが存在している中、特に1984年発売のPENTAX645が気になり始めました。
他の中判フィルムカメラよりも比較的小型なうえ、80年代の電子カメラらしく撮影モードはオート、絞り優先、シャッター優先すべて選択可能、またワインダーを内蔵しているためフィルム巻き上げは自動と、ピント合わせがマニュアルフォーカスである以外は殆ど現代のカメラと操作感が変わりません。中判カメラと言えば画質はいいが重く大きくもっさりとしていて操作が煩雑・・・というイメージを覆す軽快さで、当時のキャッチフレーズが「スーパーフィールドカメラ」だったのも頷けます。
スタジオ撮影用というよりもフィールドに持ち出すことを前提としたカメラなのにこの弁当箱のようなデザイン、一度見たら忘れられません。PENTAXがデジタルの645シリーズを発売していたことは知っていましたが、その時も中判ということでどこか違う世界のカメラのような気がしていましたところ、この初代645は現在中古市場ではそこまで高価でもないので、今回中判カメラ入門機として思い切って導入してみることにしました。
中判645サイズってどれくらい大きい?
では普通の35mm判カメラとまずはボディの大きさにどのくらいの差があるでしょうか。だいたい同時代の一般的な大きさのカメラということで手持ちのNikon F3と並べてみましょう。規模感の違いがわかりますでしょうか。
それぞれ装着しているレンズの大きさの差もありますので一概に言えませんが、乱暴な言い方をすれば2~3倍の差があると言えるかもしれません。実際にはF3の幅×高さ×奥行が約148.5×96.5×65.5mmで重量約715 g、645は約156×117×123mmで重量約1470 gです。
これだけの差が出てくるのはひとえに使用するフィルムと撮影面積の差によるものです。デジタルカメラもセンサーサイズの違いによって画質には差が出てきますが、フィルムの場合も撮影できる画面の大きさが画質に直結します。
撮影できる画面の大きさがどれだけ違うかをフォトショでつくってみました。6×6判と645判は使用するフィルムが同じ120フィルム(いわゆるブローニーフィルム)ですが、その中で撮影1枚に充てる面積を変えているだけです。一方の35mmフィルムは全くサイズの違う135フィルムを使いますので、撮影面積で言えば一般的な二眼レフが採用している6×6判は35mmの3.6倍、こちらの645判は2.7倍大きいというわけです。
645判は6×6判には及びませんが、35mmに比べると相当大きい分だけ画質面では有利ですが、その代わり120フィルム1本で15~16枚しか撮影できません。(6×6判は12枚です。)近年フィルムの価格は高騰傾向にありますので、1ショットに掛かるコストとしてはどちらが有利かは微妙なところです。
動作確認には独自のお作法あり
PENTAX645の操作の多くはボタンを押して行います。
カメラ左側のモードボタンを押しながら右側の上下ボタンを押すことで、各設定モードや数値を可変させるというもので、この当時としてはおそらく先進的な操作スタイルを意識したものでしょうが、結局はダイヤルによる操作のほうがわかりやすいためか、後継機である645N以降は普通に操作ダイヤルに変更されています。
店頭で購入の際には正常に動作することを確認したいところですが、このカメラには独特の「お約束」がありますので、これを知っておかないと「あれ?動かないや」ということになります。まずは電池を入れて電源をONにしても、フィルムを装填していない空のフィルムバックをボディに装着した写真の状態ではシャッターが一切反応しません。
どうやら、フィルムを装填していないまま撮影を進めてしまうというミスを防ぐための仕様のようですが、大抵の人はカメラを手にしたら空シャッターを切って感触を確かめますよ普通。正直この仕様はお節介でしかありません。
どうするかというと、フィルムバックを外せばシャッターを切ることが出来ます。しかしながらこの場合でもシャッタースピードは1/1000で切れているだけですので、例えば全速でシャッタースピードが出ているかどうかなどは確認できません。
そこで必要になってくるのがこちらのボディ裏キャップです。フィルムバックを外して代わりにこのキャップを装着することで、フィルムを装填することなくほとんどの操作ができるようになります。このパーツ、元々は本体の付属品ですが、発売から40年も経っているので現在流通している中古ボディの付属パーツとしては紛失してしまっている場合が多いです。メーカーの販売も終了していますので、もし手にした個体にこのキャップが付属していなかった場合は、別途中古カメラ店やヤフオク、メルカリ等をチェックして是非入手しておくことをお勧めします。
もうひとつ、このキャップを装着したあとシャッターを一度切って初めて正常なボタン操作ができるようになる仕様ですので、「シャッターを一度切る」ことも覚えておきましょう。いろいろと謎仕様で混乱しますが、まあ覚えてしまえばどうということもありません。
尚、付属品で言えばストラップも専用の取り付け金具がないと装着できませんので、これもあとで入手するとなるとたいへんなので可能なら付属している中古品を狙いましょう。金具さえ付いていれば、ストラップ自体は汎用品でOKです。
645シリーズの変遷
当然ながら初代645が最も安価に入手できますが、予算に余裕のある場合はシリーズ後継機の645N、または645NⅡもお勧めです。なんといっても2代目645Nからはオートフォーカスになりましたので、より軽快に撮影ができると思います。
2010年にはまさかのデジタル版、645Dが発売されました。CCDセンサーを搭載しており今見ても魅力的ですが、デジタルカメラとして考えれば発売後10年以上経過しておりそろそろ経年劣化が心配ではあります。
2014年にはデジタルの後継機645Zが発売されました。これ以降PENTAXはデジタル中判を発売しておらず、ひょっとしたらシリーズはここで終焉を迎えるのかもしれません。最近フジの中判デジタルGFXが一定の支持を受けているようなので、PENTAXの645シリーズ復活も面白いとは思うのですが、今のRICOH社にはそんな体力はないかもしれません。
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