■シリーズ上級機「オートボーイスーパー」■
キヤノンAF35MLは1981年発売されたコンパクトカメラ。大ヒットしたキャノンオートボーイ(AF35M)の上位機種で、レンズは3群4枚の38mm F2.8から5群5枚40mmF1.9とより大口径のものに変更されているが、その他内部構造も全く異なっており、愛称を「オートボーイスーパー」としていた。
70年代後半、世界初のオートフォーカスカメラ、コニカC35AFの登場を受け、各社から同じようなスペックのオートフォーカスカメラの発売が相次ぐこととなった。多くの機種ではボディはプラスチック製、フラッシュ内蔵でF2.8程度の40mm前後の単焦点レンズを搭載しており、露出もシャッタースピードも変えることができず、カメラは簡単であることが何より優先された時代である。キヤノンも1979年、このトレンドに沿ったコンパクトカメラを発売。オートボーイと名付けられたそのカメラは大ヒットを記録し、その後20年に渡る主力シリーズとなった。
その後、後継機オートボーイ2の登場前に1台だけF1.9の大口径レンズを搭載した他に類を見ないチャレンジングな機種が発売された。それが本機AF35ML「オートボーイスーパー」である。ちなみにこの名前はどう考えても安易そのものでやっつけ感すら漂うが、実はカメラ本体にオートボーイスーパーの刻印はなく、ひょっとして完全に別口で開発されていた機種が発売直前になってオートボーイの名にあやかろうとしたという可能性も考えられる。実際他のオートボーイとはレンズも内部構成も全く違うもので、シリーズの他機種とはあまり共通点がない。
フラッシュを内蔵したコンパクトカメラでF1.9を実現した機種は他メーカーも含みほとんどない希少なものだが、しかし絞りもシャッタースピードも操作できないので、この大口径を生かした撮影ができるとしたら暗いシーンでのノーフラッシュ撮影くらいだろうか。絞り優先機であればボケを生かした撮影もできたかもしれないのに残念である。
またこの時代のオートフォーカスはまだ発展途上で信頼性は高くなく、それにも増して本機に搭載されたCCD(電荷結合素子)ラインセンサーを使用した三角測量方式によるオートフォーカスはかなり不安定で、フィルム1ロールにつき数枚は怪しいショットがあると言われていた。ただ、一方でこのカメラはシャッター半押しによるフォーカスロックが実現しているほか、ファインダー内にLED点灯による合焦表示と、近・中・遠距離のゾーンフォーカスマークが情報表示機能として備わっている為、注意しながら撮影していればピンボケは最小限に抑えることができる。実際のところ私も試写を行ったところでは、明らかにピントを外したショットはそう多くなかった。
完全オートなので操作性に特筆すべき点はないが、とにかくシャッター音、フィルム巻き上げ、巻き戻し、手振れ警告音等そのすべてが無骨で甲高く、ひょっとして壊れているのかと疑いながら撮影をした。しかし遅れて発売されたライバル機Nikon35AF/AD(過去記事こちら)も似たようなものであり、40年も前のカメラなのだからこういうものだと思って楽しんで使いたい。
今回入手した個体は細かな不具合はあったが、モルトの張り替えと全体的な清掃のみ行い、問題なく撮影することができた。それではサンプルショットを投下しよう。使用したフィルムはフジのSUPERIA X-TRA400ネガ。現像後D800でフィルムデュープしPhotoshopとLightroomで諧調反転と調整を行いデジタルデータ化している。
■大口径レンズの描写は良好。完全オートなのが残念■
CANON AF35ML (dupe by Nikon D800)
東京オペラシティの大階段ガレリア。ISO400のフィルムながらノイズもさほど目立たず、良好な描写といえる。ピントもきちんと追従しているようだ。
CANON AF35ML (dupe by Nikon D800)
明るいシーンでの描写はこのショットも含め多少露出オーバーな感じに写るが、デジタルデータ化する過程で調整してしまえば問題ない。そもそもの写りが良好でないと調整も上手くいかないものだが、このカメラで撮ったショットはレタッチ耐性も高いと感じた。
CANON AF35ML (dupe by Nikon D800)
せっかくの大口径レンズなので日が暮れ始めて薄暗くなったシーンも試してみた。このカメラは暗いシーンの撮影時に光量不足と判断すると警告音が鳴りフラッシュの仕様を促されるが、ちなみに警告音は鳴ってもフラッシュの稼働はマニュアルなので、無視してシャッターを切ることは可能だ。
CANON AF35ML (dupe by Nikon D800)
こちらも日が暮れてからのショット。繁華街での撮影だったので手振れ警告音が鳴っていたかどうか今考えると記憶にないが、どちらにしろノーフラッシュで撮影したもの。かなり暗かったのでちゃんと撮れていてびっくり。
CANON AF35ML (dupe by Nikon D800)
こちらも条件はかなり悪かったはずでさすがにピントの精度は怪しいが、一応撮れていた。暗いシーンにそれなりに対応できるという点で大口径であることの恩恵はありそうだ。
実をいうと当初はこのカメラ、プラボディに無駄に大口径レンズを搭載した失敗作かとも思っていたが、ところが描写は良好で正直驚いた。特にこのフィルムSUPERIA X-TRA400はカメラを選ぶフィルムで、レンズの性能がもろに撮影結果に反映するじゃじゃ馬フィルムだが、このフィルムをもってしてこれだけの描写ができるのは素晴らしい。多くのシーンで及第点レベルの描写をするだけにつくづく完全オートであることが勿体ないと思う。
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