フィルム高級ズームコンパクトの代名詞TVS
CONTAX TVSは1993年に発売された高級コンパクトカメラ。1990年代の高級コンパクトカメラブームの中では珍しいズームレンズ搭載機であり、CONTAXらしい美しいチタン外装を備えたカメラである。発売当時の価格は約17万円であった。
1990年代、時のバブル景気の影響かカメラにも高級感やステータスが求められるようになり、高級レンズとチタン製ボディを採用する高級コンパクトカメラブームが到来した。この時代の高級コンパクトは今もなお中古市場で高値で取引される銘機が多いが、その代表的な機種であるCONTAX Tシリーズの単焦点レンズをズームレンズに置き換えたのが本機TVSである。
レンズはF値こそF3.5~6.5と決して明るくはないが、Tスターコーティングされたカールツァイス銘のバリオゾナーを採用、もちろん外装はチタン製で、ファインダー窓はサファイアガラス、シャッターボタンは人工サファイアを使うという贅沢仕様。ズームレンズ搭載によりTシリーズよりも大柄にはなったが、CONTAXらしいシンプルで飽きの来ない秀逸なデザインだ。
機能面でもプログラムオートのほか絞り優先撮影も可能、そこまでやるかどうかは別として、目測式ながらダイヤルによるマニュアルフォーカスにも対応し、さらに露出補正ダイヤルも備えるなど、コンパクトカメラでありながら撮影者の意図を反映させることが可能となっていた。絶対的な写りでは単焦点レンズを採用していたT2やT3のほうが上ではあっただろうが、ズームレンズによる機動性の良さではこちらに軍配が上がるだろう。
それでは早速サンプルショットを投下しよう。使用したフィルムは富士フィルムPREMIUM400ネガ、現像後D800でフィルムデュープを行い、PhotoshopとLightroomで階調反転と調整を行った。
ズームレンズでありながら描写は良好。操作性は・・・
CONTAX TVS (dupe by Nikon D800)
朝方の新宿は思い出横丁を撮影。この時間では営業している店としていない店があって、営業している店ではすでに酒盛りが始まっていた。フィルムカメラで撮影するには恰好のロケーション。
CONTAX TVS (dupe by Nikon D800)
すべてのショットはプログラムオートで撮影しており、この日の天候からしておそらくF値は5.6~8程度と思われる。キレッキレにシャープというわけではないが十分に精細感のある写りで、コントラストが高くズームレンズとは思えない良好な画質だ。
CONTAX TVS (dupe by Nikon D800)
F値が明るいレンズではないのでもともと大ボケを期待する機種ではないだろうが、それにしても予想以上にボケない。
CONTAX TVS (dupe by Nikon D800)
CONTAX TVS (dupe by Nikon D800)
ロケーションも変えてひと通り撮影してみたところでは、さすがはバリオゾナーといったところで、多くのショットで期待以上の描写を見せた。一般的にこの時代のズームレンズはまだまだ発展途上で、描写では単焦点に敵わないものが多いが、こと本機TVSに関しては、ズーム全域に渡って非常に良好な画質をキープしている。広角側が28mmスタートというのもツボを得ている。
一方で残念だったのはオートフォーカスの信頼性が低いこと。ピントが来ているショットもあるので故障品ではないはずだが、結構な頻度でピントを外しているショットが散見された。調べてみるとTVSも含むCONTAXコンパクトシリーズには良く見られる現象らしく、対策としては落ち着いてファインダー内のフォーカスエイドの点灯をきちんと確認してからシャッターを押すことでだいぶ防げるとのことであった。次回からはそうしてみようと思う。
あとはこの時代のコンパクトカメラ全般に言えることだが、最短撮影距離が50cmと長いので、テーブルフォトや小物撮りには向いていないこと。そしてF値が暗いので室内や夜間での撮影は不得手であること。いい機種ではあるが、これ一台でどんなシーンもOKというわけではない。それでもズームレンズによる機動性の高さや、見た目の高級感なども考慮すれば、フィルムコンパクトをもし何かお勧めするなら、間違いなく候補のひとつとして提示したいと思う。
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