ジャンクカメラの定番?PENTAX SPとは
PENTAX SPOTMATICは1964年にペンタックス(当時の旭光学)が発売した35mm一眼レフカメラで、全世界で400万台以上を売り上げたというベストセラー機。この当時、露出計といえばカメラとは別に単体の露出計を使用するのが一般的であったが、同社が1960年世界初となるTTL露出計を内蔵したカメラの試作機を発表することにより、これ以降「カメラは露出計を内蔵する」という設計自体をスタンダード化させた歴史的機種である。
なにしろ販売台数が多かったため現在でも中古市場では定番の機種であり、正常稼働しないいわゆるジャンク品として投げ売りされている光景もよく見かける。だが構造自体が頑丈につくられていることもあって復活できる可能性もまた多いと聞く。今回巡り合った個体もショップのジャンク棚に並べられていたSPの中の1台であり、その場で確認したところではだいたい以下の内容の個体であった。
- シャッター切れる、シャッタースピード設定値に応じてだいたい変化ありバルブもOK
- 何度かシャッターを切っているとミラーアップしたまま復帰しなくなるが、時々元に戻る
- 電池蓋が固着して開かないため露出計の稼働確認不可
- ファインダー内視野まずまず、黒点(塵やゴミ)多数
- シャッター幕キレイ
見込みがありそうと思い、500円で購入し自宅へ持ち帰った。
症状1:ミラーアップしたまま復帰しない症状を解消
ではまず頻繁に起こる「ミラーアップから復帰しない症状」の解消に挑戦してみよう。ミラーアップとは、一眼レフ機において内蔵のミラー(反射鏡)が跳ね上がったまま降りて来なくなる状態のこと。この状態ではファインダーを覗いても全く何も見えないということとなり、この機種ではよくある不具合のひとつだ。
ミラーをロックしてしまう構造がボディ下部にあるため、まずは下プレートを外す。写真の4本のネジを外せば簡単に外れる。
下部プレートを外した状態。
こちらがミラーアップしている状態のパーツの位置関係となる。ポイントとなるのは矢印の逆L型のクランクだ。
このクランクが傾くと左側から伸びている細いアームが下降してミラーアップが解除されるわけだが、経年によりパーツの動きが悪化しロックした状態のままクランクが止まってしまうようだ。この仕組みを復活させるには関連するパーツに潤滑油を刺して本来の動作を取り戻させる必要がある。
間違っているかもしれないが、今回は写真の4部分を中心に注油を行った。潤滑油といっても一体何のアブラを使ったらいいのかというと、本来ならカメラ修理に適しているとされるラウナ潤滑油#40とか、スーパールブリカントオイル#77がいいと思われるが、これらを導入するとカメラ本体より高いコストがかかってしまうため、今回は一般的によくあるミシン油を代用することにした。
注油はほんの少量でいいはずなので、精密ドライバーの先端に少量の潤滑油を付け、それをパーツに充てるようにして潤滑油を移動させるようなイメージで行いつつ、シャッターを押す→注油→シャッターを押す、という動作を繰り返し、ミラーアップが起こる頻度を確認しながらじっくりと進めよう。
これを何度か繰り返しているうちに、ミラーアップのままロックをすることがなくなった。一応成功しているわけだが、ミシン油の使用については決して推奨しているわけではないので、もし使用する場合はあくまで自己責任でお願いしたい。
症状2:電池蓋の固着を解除
露出計はなくても撮影できないわけではないが、先にも述べた通り、この機種は世界初の露出計内蔵一眼レフというのがウリであるので、できれば正常稼働させたい。そのため露出計が稼働するかどうかをチェックしたいわけだが、露出計を動かす電池を格納する電池室の蓋が固着して開かなくなってしまっている。
これは装着している電池が液漏れを起こし、その液が固まってしまったことによるものであり、力任せに蓋を回してもネジ山を壊してしまうことになりかねない。そこで開かなくなった電池蓋の周りに酸性洗剤を盛って少し放置しておくことにした。この機種で使われた電池は元々はH-B型水銀電池だが、この電池は1995年に製造中止となりその後はLR41型ボタン電池にアダプターを噛ませて使われているケースが多い。どちらであってもアルカリ性となるため、固着を解くには酸性の溶剤で中和させるのが有効というわけだ。
酸性の溶剤といってもいったい何がいいのかと思い、とりあえず家じゅうを探索して酸性洗剤をひとつ発見した。
サンポールはトイレ用の酸性洗剤で、トイレ以外には使用しないこととメーカーの注意書きがあるほか、酸性の溶液は金属を変色させてしまうので使用を推奨はしないが、背に腹は代えられず今回は水で薄めて少量を塗付することにしたもの。しばらく待ってから同じ場所に潤滑油を塗付して滑りを良くしておくとなお良いだろう。
その後ネジ山の保護のためビニールテープを貼り付け、その上から500円玉か何かで蓋を押し付けながら回してみよう。
開封に成功した。案の定電池は液漏れを起こし、緑色の液が漏れて固まっていた。酸性洗剤を使用したことによりプレートは変色してしまう危険性があったが、薄めて使ったからなのか今回は目立った変化は起こらなかった。
症状3:露出計の稼働
使用されていたのはH-B水銀電池ではなく、LR41ボタン電池にスペーサーを噛ませたものであった。
スペーサーはこのまま再利用できるので、新しいLR41ボタン電池を購入しこれをセットしてみたが、どうやら露出計は動かない様子。
そこでよく観察すると、電池ボックス部とカメラ本体の接点となる矢印のパーツがやはり緑色に汚れている。これでは通電を妨げてしまうので、このパーツはクリーニングを行っておこう。ところが無水エタノールを付けた綿棒でこれを清掃していたところ、経年で材質が弱っていたのだろう、なんとネジで止められた根本の部分からあっさりと折れてしまった。
要するに電池ボックスとこのパーツが接触していればいいだけなので、他に適当なパーツがあれば代替してしまえばいいのだが、生憎適当なパーツが手元に見当たらないため、折れたパーツを磨いてから矢印のネジ下に挟み込んで簡易的に固定することにした。挟み込んでいるだけなので何らかのショックで外れてしまう可能性は否定できず代替パーツは別途探してみることとするが、一旦はこれで様子見しよう。
これで露出計が動き出した。一応明るさに応じてメーターが上下するものの、精度とか実用に耐え得るかはこの段階ではまだ不明である。
さて、長くなったので次回Part.2にて引き続きメンテナンスを続行しよう。ところで本記事はあくまで自己流でジャンクカメラの復活にチャレンジしているものであり、手法や解釈については誤りもあると思うので一切お勧めはしないことと、本記事を参考として発生したいかなる損害も何ら責任が持てないことはお断りしておく。
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