Nikonのロングセラー、マイクロ55mmF2.8とは
Nikon AI Micro-NIKKOR 55mm F2.8は、1979年に先代モデルのマイクロ55mmF3.5の後継として登場、その後2020年の生産完了まで約40年間に渡って生産されたロングセラーモデルです。ハーフマクロらしいコンパクトで取り回しのよいサイズ感と、解放からキリっとしたシャープな写りが特徴で、フィルム時代はNIKKOR 50mmF1.4やF1.8の代わりにこちらを常用レンズとするユーザーも多かったとか。
1981年にはマイナーチェンジのAI Micro-NIKKOR 55mm F2.8Sに置き換わりますが、実はこのレンズ、1979年登場時AIニッコールを名乗りつつもすでに最初からAi-S仕様となっていたため、名称にSは付きましたが実際には設計に差はなかったものと思われます。外観上も殆ど見分けがつかないので、どうしても区別したい場合はシリアルNoから大まかに当たりを付けるのがひとつの方法です。
17万台は初期の無印モデルの可能性が高く、80万台以降はSモデルのしかも比較的新しい2000年代以降の製造と思われますが、悩ましいのが70万台のもので、ちょうど生産時期がSに置き換わった1980年代にあたる為、どちらとも言い切れず判断が困難です。なるべくシリアルNoの大きいほうが経年劣化が小さいと考えられますが、このレンズ特有の不具合としてヘリコイドが極端に重いなどの個体も多く存在するので、導入の際は可能な限りしっかり手に取って状態を確認したいところです。
1980年ローンチの当時のフラッグシップ、F3に装着してみましたが、ボディとの一体感もありとてもかっこいいですね。マクロレンズなので最短撮影距離が0.25mと短く、被写体にぐっと寄れるのが最大のアドバンテージです。
ミラーレス機であるZfにマウントアダプターを介して装着してみました。マウントアダプター分だけ全長は長くなってしまいますが、Zfのクラシックなデザインを壊すことなく良く似合っていると思います。尚マウントアダプターはよりオールドレンズに似合いそうなSHOTENの製品を選びました。
マクロ倍率=0.5倍(ハーフマクロ)とは
ところでハーフマクロとはどういうことでしょうか。ごく簡単に説明しますと最短撮影距離で撮影した際、被写体が1:1の大きさで写るのが等倍マクロ、ハーフマクロはその半分の1:0.5で撮影できるもののことを言います。
フルサイズセンサーの場合で説明すると、フルサイズセンサーのサイズが36mm×24mmなので、直径約23.5mmの10円玉がフレームいっぱいに写るのが等倍マクロ。
その半分程度の大きさでしか映らないのがハーフマクロです。
ちなみにセンサーは所謂フルサイズだけでなくカメラによってAPS-Cやマイクロフォーサーズ等さまざまなので、その場合はそれぞれ画角がフルサイズの1.5倍や2倍になり、フルサイズ基準から比較するとより大きく写ることになりますが、これはマクロ性能というよりもカメラの特性の話ですので混同しないようにしましょう。
マクロ的には被写体をより大きく写せる等倍マクロが有利といえますが、一方でハーフマクロはレンズ自体を短くできるので取り回しがよく、カジュアルにマクロを楽しめるという利点もあります。どうしても等倍で撮りたい場合は、NikonならPK-13などエクステンションリング(中間リング)を併用することで可能となりますが、レンズ全長が長くなってしまうので注意しましょう。
オールドレンズらしからぬキレのある描写力
それでは作例を投下しましょう。本来フィルムカメラ時代のレンズなのでフィルムカメラでの作例を用意したいところですが、今回はデジタル機であるZfに装着したショットとなります。
まずはマクロと言えばお約束のお花のショットを。ちょうど飛んできたルリシジミ(かな?)も一緒に撮影できました。このチョウは大きさ約2~3cmの小さな蝶ですが、ハーフマクロでもここまで大きく撮影できました。フレームいっぱいに大写しというわけにはいきませんでしたが、むしろ写真に余白があることによって、それほど大きな蝶ではないのだなということが推察できる写真になったかと思います。
たまたま咲いていたお花をほぼ最短撮影距離で撮影。ハーフマクロでもここまで大きく写せますので、一般的なシーンでは困ることは少ないでしょう。
トラの顔をアップで狙いました。このショットは最短撮影距離ではなく少し離れた位置から撮っていて、仮に最短まで近付くと目から鼻のあたりまでが大写しとなります。毛並みや髭の一本一本がきちんと描写されていて、さすがはニコンのマイクロと思わせる一枚。
マクロレンズですが55mmの標準レンズとしても秀逸です。これはF8くらいまで絞っていますが、隅々まできっちりと写っていてとても40年前のレンズとは思えません。
木々の葉の一枚一枚が精細に描写されています。
近距離にピントを持ってきた際の前後のボケに注目。前ボケは若干ざわつきますが、背景側の滑らかなボケが実に美しいです。マクロレンズなのでどこまででも寄れるという安心感もあります。
瓦に積もった枯れ葉にピントを合わせていますが、画面上部に位置した木の枝が程よくボケて遠近感のあるショットとなりました。コントラストの強さもちょうどいいです。
開放にて背景をぼかしましたが、2.8と控えめなF値が背景の輪郭を残して、ぼけ過ぎないいい塩梅の演出となりました。開放でもピントの合った部分は十分にシャープなので、安心して開放から使っていけます。
噂どおりかっちりシャープな描写で、開放から問題なく使えますしボケ具合も滑らかで好感が持てます。40年以上前のフィルムカメラ用の設計とは思えない高画質で、デジタルとなった現代においても全く遜色がありません。NIKKORファンなら是非手にしておきたい1本と言えるでしょう。一方ではきっちり写りすぎてオールドレンズらしさは希薄と思う方もいるかもしれませんので、50mmF1.4あたりと写りの違いを比較してみるのも面白そうです。
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