クセ玉で有名な元祖ハイスピードレンズ、ズマリット
ズマリット 50mm F1.5は、ライカが初の大口径レンズとして1949年~1959年まで製造発売したレンズで、シュナイダー社が開発したハイスピードレンズXenon(クセノン)の技術供与を受けたモデルと言われている。ズマリット銘はその後2007年に突如として復活し現在もラインナップされているが、現行ズマリットは50mmでF2.4と普及モデルの位置付けであることから、単に名前を使い回されたものと思われる。ライカはちょいちょいこういうことをするので混同しないようにしたい。
1940年代当時のライカでは最も明るいレンズであったが、使用されたガラスの材質が柔らかいものであったことから、現在はすり傷や曇りの発生したあまり状態の良くない個体が市場に溢れ返っている。描写はクセ玉として有名であり、ゴーストやフレアが出やすく、開放付近の描写では滲みがあり、ボケ方が特殊(ぐるぐるボケ)ということで、今となってはどこまでが本来の性能でどこからが経年によるものなのか判断がつき辛く、たまたま手にした個体によっては評価が大きく違うといった状況だ。
小さなレンズだが手に取るとずっしりとした重量感に驚く。鏡筒は真鍮製で重量は約320g、金属の質感は良好で工芸品を思わせる精巧さを併せ持つ。特に15枚で構成されている絞り羽根が円形をキープしながらぬるぬると動くさまは芸術的と言っても過言ではない。ズマリットを手にすることがあったら是非動かしてみてほしい。
現在、ミラーレスカメラの台頭によりオールドレンズをデジタルで使うことがすっかり一般的になり、様々なレンズが再評価される中、ズマリットは他の優等生的なレンズに比べ、当時は欠点でしかなかったいろいろな「クセ」と良すぎない描写が逆にわかりやすくオールドレンズ感を楽しめるということで、逆説的に注目されるようになった。
今回入手したのはLマウント版の前期モデルで、シリアルナンバーから調べてみたところ1953年頃の製造のものであった。尚Lマウント版はM型ライカで使うにはLマウントをMマウントに変換するアダプターリングが必要になるので注意されたい。
手持ちのいろいろなM型ライカに装着してみた。M4とはやはり時代も近く最もしっくりくる組み合わせのように思うが、CL(ライツミノルタCL)と組み合わせるとミニマルな雰囲気を漂わせ、M10との組み合わせはモダンとクラシックの融合感が素晴らしい。
バリエーションモデルの見分け方
さてズマリット50mmF1.5は前述の通り1949年~1959年の10年間にわたって製造されたが、マウントはLおよびMの2タイプ存在するほかそれぞれ途中でマイナーチェンジを行っており、前期モデルと後期モデルに大分されている。状態の良い個体が少ないと言われるズマリットだが、当然製造が新しいほうが劣化が少ない可能性が高いこともあるかと思うので、外観上前期と後期でどこが違うのか判別のポイントを記しておこう。(尚、シリアルナンバーがわかれば製造年を調べることは可能。)
絞りリングの文字プリント仕様の違い
LマウントMマウント共通の判別ポイントはこれ。写真はLマウント版前期モデルであるが、F値の数字が鏡筒にあり、絞り輪のほうに▲が付いているのが前期モデル。後期モデルは鏡筒のほうに▲が付いていて、絞り輪のほうにF値の数字が付いている。
レンズ取り付け位置確認ポイントの違い
Mマウント版のみ写真の位置に、レンズを取り付ける際にボディとレンズの取り付け位置を合わせるための赤い確認ポイントが付いているが、これが単に丸くペイントされているだけなのが前期モデル、立体の球パーツになっているのが後期モデルだ。ただライカはバリエーションが多く例外モデルの存在も多いので、これらの法則に沿っていないモデルもあるかもしれないことは断っておこう。現在の相場感は、最も安価なのがLマウントの前期型で15万円前後、最も高価なMマウントの後期型が20万円前後となる。これより安価な個体は状態を疑ってみたほうがいいかもしれない。
ズマリット 50mm F1.5の描写がライカらしいかといえばいろいろ意見がありそうだが、元祖ハイスピードレンズとして一度は手にしてみたいと思っていた。今回購入にあたっては複数の個体を吟味させてもらったが、概ね状態の良し悪しと価格は比例しているように思う。あまりリーズナブルな個体はよくよく状態を確認し、できれば実物を手に取って少しでも状態の良いものを選びたいところだ。現在試し撮り中につき、描写に関してはまた近日中にお届けしよう。
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