ライカレンズの原点、エルマー50mmF3.5
エルマー50mmF3.5は、1925年正式に発売された世界初の実用量産型35mmカメラ、いわゆるバルナックライカに標準レンズとして採用されたレンズである。ライカ黎明期の代表レンズのひとつであり、現在でも描写には定評がある。
そもそもこの時代のカメラと言えば乾板やロールフィルムといった面積の大きなフォーマットのフィルムを使用するものが主流であり、バルナックライカで採用される35mmフィルムのような小さなフォーマットで高解像度の記録を可能としたのはエルマーの開発に成功したことが功績のひとつであったと言われている。つまり、エルマーが存在しなければあるいはライカもニコンもすべての35mmフィルムカメラは存在していなかった可能性すらありうるという、歴史的に見ても非常に重要なレンズと言える。
エルマーの歴史は古く数多くのバリエーションがあるが、今回導入したのはその中でも、戦後すぐの1946年から生産されたレンズコーティングが施され外装がクロームメッキ仕様のモデルである。この仕様のエルマーは当時非常に大量に生産されたため、現在でも最も入手し易い。しかしながらすでに製造から80年近い歳月が経過しており、個体によって劣化状況が全く異なることから、今では一本一本がそれぞれ違う描写をするものと思ったほうがよい。これもオールドレンズの醍醐味といえるだろう。
(左)ズミクロンM50mmF2、(右)エルマー50mmF3.5
この時代のいわゆる沈胴仕様のレンズとして、手持ちのズミクロンと並べてみた。こちらのズミクロンはMマウント、エルマーはLマウントなので平仄を合わせるためエルマーにはLM変換アダプターを装着している。最小F値が違うので一概に比較できないながら、エルマーがいかにコンパクトに作られているかがわかる。
但し、沈胴させたときの繰り出し部分の長さにはかなりの違いがある。エルマーは繰り出しが大きく、沈胴させれば外観はよりフラットではあるが、その分カメラの内部側にはレンズ鏡胴を受け入れるだけのスペースが必要となる。後述するがこの関係で、現在ではエルマーを使用する際に制約が生じることとなった。
それではいろいろなカメラに実際に装着してみよう。
いろんなカメラに装着してみた
M4に装着
本来はまずはバルナックライカに合わせたいところだが生憎所有していないので、LMアダプターを付けたまま手持ちのM4に装着した。私のM4は1970年モデルなので、おそらくレンズとボディの間に25年程度の時の隔たりがあるわけだが、ライカ同士よく似合っている組み合わせだ。この場合、LMアダプターが50mm用のものを使えば、ファインダーを覗いたときのブライトフレームもちゃんと50mmで表示される。
エルマーを沈胴させた状態はご覧のとおり。ほぼほぼレンズの出っ張りのないフラットな姿となり、フィールドへ持ち出す際に非常にコンパクトに済む。もっと小さなカメラも存在するとはいえ、M4をこのコンパクトさで持ち出せるというのはアドバンテージではないだろうか。
CL(ライツミノルタCL)に装着
で、もっと小さなライカであるCLに装着してみた。CL自体は確かに小さいが、実はCLではエルマーを沈胴させることは絶対にしてはいけない。CLは露出計を内蔵しているが、その露出計のセンサーがシャッターチャージ時に沈胴したエルマーの鏡胴と物理干渉してしまうからだ(過去記事こちら)。沈胴させない前提であれば、それなりにコンパクトで悪くない組み合わせかもしれない。
Z6に装着
では現代のミラーレス機、Z6に装着してみよう。Z6はモダンなフォルムながら、不思議とオールドレンズとの相性が良く見た目もばっちりである。しかしこの場合も上記のCLと同様、鏡胴部がカメラ内部のセンサーに干渉してしまうおそれがあるため、沈胴は厳禁だ。実際のところ、繰り出し部分を計測したがギリギリでセンサーには届いていないようではあったが、沈胴する動作でほこりや金属片なんかが直接センサーに付着する可能性が考えられることから、やはりやめておいた方が賢明だろうと思われる。実写レポートは後日あらためてお届けしよう。
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